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リウマチほっとネット ドクターインタビュー

寛解を目指すことはもちろんですが、
ご自身にとって、何が“最善”であるのかの選択を

関節リウマチ治療の第一目標は、手術までの炎症と痛みのコントロールだった

──先生は30年以上にわたって整形外科診療の最前線で活躍されてきたわけですが、まず、その中で関節リウマチ治療がどのように変わってきたか、整形外科医の観点からお話いただけますか。

田中:関節リウマチとは関節の滑膜が異常に増殖し、炎症を起こして骨を壊す物質を出すという病気なので、まずはその炎症や痛みをお薬で抑えることから始まります。当時、治療薬としては、抗炎症薬のNSAIDs、あるいはステロイド薬を中心に、いくつかの抗リウマチ薬も使用されていました。ただ、それだけでは炎症や痛みは十分にコントロールできずに手術に至る患者さんがたくさんいらっしゃいました。したがって手術に至るまでにどのような薬物療法をして症状を抑えていくかが目標になっていたというのが1980年代から90年代の関節リウマチの治療でした。

──炎症や痛みのコントロール、そして最終的には手術に至るということで、当時は整形外科の先生がリウマチを診るというのは必然だったわけですね。

田中:そうですね。具体的には関節リウマチでは関節の滑膜が異常に増殖するので、炎症によって腫れた関節の滑膜を取る、滑膜切除という治療を行います。さらに骨や関節が壊れてしまった場合には人工関節置換術や関節形成術などを行うわけですが、このような手術は成績も良く、技術的にも確立されていたので、患者さんの満足度も高いものでした。ただ、その一方で、患者さんにとって手術を受けるというのはハードルが高かったと思います。

──1990年代後半には、すでに海外で抗リウマチ薬として高い評価を受けていたメトトレキサート(MTX)が登場しています。これによって治療に変化などはあったのでしょうか

田中:私は大学を卒業後に1年間、東京都内の病院の整形外科に勤務していたのですが、そこにいらしたリウマチ専門の先生が一部の患者さんに対して先駆的にMTXを使用しておられたため、この薬剤の効果は認識していたので、MTXが公式に使用できるようになったのは非常に喜ばしいことでした。実際、コントロールが良好な症例が多くなり、患者さんの満足度が上がったのは確かです。ただ、関節リウマチの手術数自体は1990年代〜2000年代のはじめぐらいまでは、それほど減ってはいなかったように思います。

生物学的製剤の浸透に従い、人工関節置換術等の手術は半減

──では、やはり大きな変化があったのは生物学的製剤が登場した2003年以降ということでしょうか。

田中:整形外科としては、生物学的製剤の実績は海外からも多く報告されていたので、手術数は減るだろうと予想していました。ただ革新的な薬剤である分、最初は皆すごく慎重に使用していました。また、日本リウマチ学会も製薬会社に協力を仰いで、同剤の有害事象などを確認する全例調査を実施しました。そんな背景もあって、大変有効な薬剤でありながら、生物学的製剤の普及はゆっくりだったのですが、その分、国内で生物学的製剤をより安全に使用するためのガイドラインを策定することができました。その後生物学的製剤の使用は右肩上がりに増えて、直近のデータでは4分の1程度の患者さんに生物学的製剤が使用されています。

──整形外科における手術なども減ってきているのでしょうか。

田中:膝や股関節の人工関節の手術をはじめ、薬剤で滑膜炎をかなり抑えられるようになったことから滑膜切除の手術などは、ほぼ半減しています。ただ、実はその一方で、関節リウマチ患者さんの手足の指の手術、あるいは骨折の手術などは減っていません。これはあくまでも想像の範囲なのですが、例えば、膝や股関節などの大きな関節の手術が増えてくるのは発症から10年を超えたあたりからになります。つまり、大きな関節はある程度の時間、滑膜炎による関節破壊の蓄積があって手術をすることになります。そのために、適切な薬物療法で滑膜炎を抑えられるようになった近年は手術に至らない患者さんが増えました。一方で、手足の指というのは、関節リウマチが発症した当初から炎症が起こることが多いことに加えて、常に動かして負担のかかりやすい場所です。足の指に関して言えば歩くだけでも負荷がかかりますし、特に女性の場合はヒールなどを履くのでさらに負荷が増えます。もともと外反母趾の方なども多い上、腫れている指に負担がかかると、MP関節が脱臼した状態になってしまい、それが放置されることで手術が必要なってしまうと考えられます。

──骨折というのは関節リウマチが原因なのですか?

田中:骨折については、もともと関節リウマチの患者さんは病気そのものの影響で骨折しやすいのですが、さらに近年は関節リウマチ患者さんが高齢化しており、特に女性の場合、高齢になれば骨粗鬆症もリスクが増加します。私たちが持っている統計では、2000年代初頭、75歳以上の患者さんは関節リウマチ患者さん全体の10%程度だったのですが、それが2015年には25%になっているのですね。つまり、4人に1人は75歳以上なのです。また、関節リウマチ患者さんの場合、痛み等によってどうしても非活動的になって日光に当たらず、骨の形成に欠かせないビタミンDも生成されないなど、骨に対するネガティブな要素が多くなります。このため、骨折は相変わらず、ある一定の割合で発生するというのが現状です。

関節リウマチ患者さんの運動の必要性

──関節リウマチの患者さんの場合、痛みと向き合うという部分で薬物治療や手術以外にも、装具やリハビリテーションも非常に重要になってくると思うのですが、何かアドバイスがあればいただけますか。

田中:痛みのために運動や外出をしないとリウマチ自体も悪化するので適切な運動を行うことは推奨されます。例えば、リウマチ友の会のホームページなどにも掲載されているリウマチ体操や、日本整形外科学会が推奨するロコモティブシンドローム(運動器症候群)を防ぐためのスクワットや片足立ちといった“ロコトレ”という負担の少ないトレーニングもあるので、こうしたものを参考に、無理なく運動してください。また、炎症が強い時期に無理に運動をすると、かえって関節の変形が進んでしまうこともありますから、医師や理学療法士等からアドバイスを受けることをおすすめします。

内科医、整形外科医、双方の視点が必要

──そういった現状を考えると、関節リウマチ治療において整形外科の先生方の役割は、逆にますます大きくなってきますね。

田中:生物学的製剤の登場後、2010年に欧米のリウマチ学会によって策定された「Treat to Target(T2T)」という寛解という目標に向けた治療戦略が関節リウマチ治療の柱になっています。確かに、早期受診をした初期の関節リウマチ患者さんにとって、寛解を目指すような治療は非常に重要です。ただ、例えば高齢の関節リウマチの患者さんの場合、高齢になってから発症したという方もいる一方で、30年前、40年前に発症された方も多いのです。生物学的製剤はリウマチの進行を抑えてくれますが、長年進んだ関節破壊を治癒してくれるわけではありません。そういった方には異なるアプローチが必要になってきます。

──薬物療法で寛解を目指すのではなく、合併症などを最小限に抑え、極力快適な日常生活を送れるような治療を目指すことも必要だと。

田中:そのためには薬剤だけではなくて、外科的なアプローチも必要になってきます。例えば足の指に痛みがあって寛解に至らない場合、そのために強い薬物を使用するのではなくて骨の変形等、器質的な異常を手術で治すことで薬物は必要なくなるかもしれない。また、小関節の変形や破壊をどうやって防ぐかなど、早期のまだ薬が十分に効いていない時期にどうやって関節を保護するかという観点から、例えば装具の使用や靴のフィッティング指導といった日常生活の指導も重要になってきますね。

──では、関節リウマチの患者さんは、整形外科と内科、どちらを頼ればいいのでしょうか。

田中:そうですね。実は悩ましい問題で、生物学的製剤の登場以来、その治療が内科にシフトする中で、前述したようなトータルな診療がなかなかできていないのではないかと危惧しています。特にリウマチ専門医の少ない地方はその傾向が顕著です。近隣にリウマチ専門のクリニックがあれば、そこを受診するのがベストですが、もしなければ、内科と整形外科で補い合いながら診療を行うのが理想ですので、内科だけではなくて時々整形外科を受診するような“デュアル主治医制”のような形をとっていただくのがいいのかなと思います。

──関節リウマチ治療には幅広く、そして柔軟な考え方が必要だとも言えますね。

田中:その通りです。T2Tによって寛解や低疾患活動を目指せるようになったことは、非常に喜ばしいことです。しかし、例えば20代の人と70代の人では治療のゴールを一括りにしてしまうと、かえって誤解を生むことがあります。私は整形外科医としてT2Tの追求と同時に、Treatment for Patient=T4P、個々の患者さんにとって何が適切かということを目指した治療を心がけています。

リウマチに関連した手術療法の推移(Ninjaデータベース2015より)
平成30年 厚生科学審議会疾病対策部会 リウマチ等対策委員会報告書

慶應義塾大学
名誉教授
竹内 勤先生

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リウマチ・膠原病内科 教授
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